リメンバー2月8日

父の心臓が止まった。


ライブを控えた3時間前。
ライブハウスの最寄り駅に降りた瞬間、母からのたくさんの着信に気がついた。
「お父さんが呼吸してない。早く病院へ向かって。」


ちょ・・っと待ってよ!週末深夜練習して、友人知人に告知もして、
それ以上に大量飲酒に時間を割いて・・今日本番なのに!


すごく戸惑ってまた連絡する、と母に言い残し、すぐメンバーたちに逢ってその話をした。
ほぼ即座に「行け。すぐに行け。」って。「呼んでるでる人たちどうしよう・・。」「まだ間に合う、連絡しろ。」って。
迷惑かけてほんとにごめん。ほんとどうすんだろ。演奏できないジャン?でも親父死んじまうジャン?
俺らプロだったら絶対空けられないんだけどな。そのままメンバーと別れて、電車に飛び乗った。


親父は植物状態の寝たきりでもう4年になる。最近毎月毎に9度近い熱を出していた。そしてこの日の正午、心臓が止まり呼吸しなくなったという。とりあえず蘇生はしたらしいが、危ないかもしれない。

八王子からタクシーに乗って、病院に着いた。看護士さんから状況の説明を受ける。
懸命の心マッサージのおかげで危機は脱したそうだ。そして、今後の緊急時の対応について交わしている念書の内容について確認が始まる。
人口呼吸器をつけるか否か、先日急に母は、それをつける事を望んで先生に伝えていたのだが、「今日の姿を見て、これ以上苦しめるのは辛い」と呼吸機の装着を拒否した。

母は、自宅から2時間かかる病院なので、こんど突然何かあったら間に合わないかもしれないね、と言った。
嫁さんもタクシーで飛ばしてきて、ひとまずの無事を喜んだ。ぐっすり眠る親父を囲んで、ぼんやりと家族三人表情を失っていた。
とりあえずできることもないので、出口に向かった。

ほっとした途端、今日という日の為に集中したエネルギーを完全持て余している事に気づく。はやくメンバーに会って、お礼を言いたい。そして詫びにビールでも買いたい。だいじょうぶだったよ、迷惑かけてごめんね。

が、結局会場に向かうことは無く、吉祥寺で降りた。嫁さんが冷静に、「そんだけインパクト与えてしまったら皆引くでしょうが。」と言ったので納得した。そうなんだよね、そういうとこ昔から感知できないんだ俺の脳は。

思いがけず、腹も減っていたので久しぶりに二人で晩飯を食べる。台湾料理屋でうちらにとっては贅沢なごはん。今日のライブの為に義父が子守をしてくれているので、思わぬ時間があったんだ。チンタオビール。「まあね、あなたの気持ちはよくわかるよ。」酎ハイ。酎ハイ。
「また遊んでね!って自分から言えばいいのよ。」と嫁御…不謹慎だがまだ動けて喋れていた頃の親父のマネで言いたい。

「みんな、あじがどお」

そして、関係者各位、迷惑かけてしまって申し訳ない。
ごめんなさい、絶対またやるから!!